つかむ!ジャーナリストの目で。川村範行 名古屋外国語大学 外国語学部 特任教授 日中関係論、現代中国論、メディア論、日中メディア比較論

日中両学会の国際シンポジウムでコメント発表

                               2013年9月14日


日中関係学会、中国中日関係史学会共催

国際シンポジウム「現下の難局を乗り越えて~日中が信頼関係を取り戻すには」

 

 日中両国の学会が9月14日、東京都内で日中関係の打開の道を探るシンポジウムを開催したことは重要である。政治外交分野で日本日中関係学会から宮本雄二会長、金子秀敏理事(毎日新聞専門編集委員)、中日関係史学会からは王泰平副会長(中日友好21世紀委員会副秘書長)、劉江永理事(清華大学教授、同委員会委員)がそれぞれ基調報告した。これについて、川村範行副会長(名古屋外国語大学特任教授)と高海寛理事がそれぞれコメントを発表した。
(シンポジウム概要は日本日中関係学会のHP参照)

◇基調報告についてのコメント(元原稿「主張の違いを調整し、歩み寄りの道へ」)
川村副会長;日中両国の対立はさまざまな方面に悪影響を及ぼしており、長期化を憂慮する。日中関係が尖閣問題を人質にして立ち往生している事態を打開しなければならない。まず、島周辺海域での偶発的なトラブルから軍事衝突に発展することを防がねばならない。そのために、危機管理メカニズムの確率は急務である。2010年の中国漁船衝突事件の教訓から昨年5月、浙江省で日中高級事務レベル海洋協議が開催されたが、これを早急に再開し具体策を決めるべきである。日中防衛当局のホットラインの設置、現場海空域でのトラブル防止取決めが急がれる。
 次に、「棚上げ」合意があったかなかったかについて主張が平行線をたどるばかりであり、棚上げ論議を「棚上げ」して、次の段階へ進まなければならない。日中二国間関係で角突き合せているだけではらちが明かない面があり、国際関係の中で尖閣問題を捉えていくことも必要だ。
 オバマ・習近平首脳会談で新型大国関係が話し合われたが、これは本質的にはパワー・シュアリングであり、将来的にはアジア・太平洋についても西太平洋における中国の支配影響力を米国に受け入れさせるという意味合いが含まれている。米中の采配の中で尖閣問題も左右される。私は中国人民大学の国際関係の教授と先月、座談会を行ったが、彼は中国にとって尖閣問題は対日ではなく対米であり、尖閣を含む東シナ海一帯における中国の支配力を米国に認めさせることが究極の狙いであると言っていた。
 実は7月30日に中国共産党政治局の「海洋強国建設」をテーマにした集団学習会で習近平が海洋権益に関して「主権属我 擱置争議 共同開発」という12文字の方針を打ち出した。まず「主権属我」主権は譲れないという強い姿勢を前提に鄧小平路線「擱置争議 共同開発」を継承している。この方針は尖閣、南沙問題に対応するヒントとなる。尖閣については1978年の日中平和友好条約締結直後に、日本政府が中国との共同開発を前向きに検討した時期があった。安倍政権は習近平の新方針を重視し、共同開発の道を探ることが肝要ではないか。

◇シンポジウムの総合分析
尖閣国有化から1年、対立関係は依然続き、現場では偶発的衝突の危険性が増す中で、両国学会が真正面から問題に取り組んだことは学会歴史に残る実績である。重要と思われる点を以下挙げる。
①中国側(王泰平)は、日本が領有権を巡る紛争の存在を認め、「棚上げ」合意に戻るべきだと主張。昨年の北京シンポでは一方的な口調で攻撃的だったが、今回は穏やかな口調に変化。王泰平は両国政府の肝いりの日中友好21世紀委員会副秘書長であり、その発言は中国政府の政策・方針を反映しているとみるべきである。また、王泰平は習近平の12字方針「主権属我、擱置争議、共同開発」を説明し、日本政府が1970年代末に共同開発を検討した経緯を指摘した。習近平政権が、この線で日本との話し合い解決を考えているという重要なサインとも受け止められる。
②日本側は、外務省寄りの宮本元大使が「棚上げ」について「暗黙の了解だった」と「黙契」を認めた。昨年9月の北京シンポジウムでは、「日中間に領土問題は存在せず。棚上げ合意もなかった」と全否定したが、今回は中国側主張に歩み寄った。日本外務省も、この線で中国側に歩み寄っていることが観測される。
③尖閣諸島を国有化から沖縄県へ委任、或いは民間会社への委託ならどうかと、日本側がボールを投げたところ、中国側NO2の劉江永・清華大学教授=日中友好21世紀委員会委員=があっさり肯定した。王泰平は否定も肯定もしなかった。「国有化」を「日本の実効支配を決定的にした」と捉えた中国だが、単なる所有権移転という日本の説明に譲歩を示す兆しなのか・・・。中国は劉江永も日中友好21世紀委員会委員であるが、その発言は中国政府の意向を反映しているとみるべきか、微妙なところである。
④宮本大使は国際司法裁判所での裁定を主張し、劉江永教授が個人的見解としながらも受け入れた。王泰平は肯定も否定もせず。中国側はこれまで国際司法裁判所でのジャッジメントについては一切受け入れてこなかったことから、劉江永の見解をどうみるか。個人レベルとみるのが妥当だが、国際司法裁判所での審査にも耐えられるだけの理論構築を準備しているということか・・・。中国政府の意向を反映しているかどうか微妙である。

◇まとめ
日中外交当局間で現在、話し合いに向けて折衝が行われており、▽日本側もかたくなに紛争の存在を否定できず、「外交上の問題」などの外交テクニック表現で中国側と落としどころを探れるか▽当時の関係者の証言・手記(昨日配布の川村コメント原稿参照)などから日本側も「棚上げ」合意を全否定はできず、「暗黙の了解」というレベルまで譲歩できるか▽「国有化」を変更し、沖縄県委託か第三セクター移管の可能性もあるか▽習近平の最新12字方針「主権属我 擱置争議 共同開発」を手掛かりに「共同開発」へ踏み出せるか――などが、今回のシンポジウムを通して観測された。