つかむ!ジャーナリストの目で。川村範行 名古屋外国語大学 外国語学部 特任教授 日中関係論、現代中国論、メディア論、日中メディア比較論

民間交流の維持継続を

川村範行・名古屋外国語大学特任教授

 

尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権を巡る日中両国の対立緊張関係はますます憂慮に堪えない状況です。エスカレートする一方であり、このままだと偶発的な衝突の危険性も否定できません。私は1月下旬、4大学の教授有志7名で両国政府向け緊急提言を提出しましたが、この中で2010年の中国漁船衝突事件の教訓として2012年5月に発足した「日中高級事務レベル海洋協議」の早期再開を訴えましたが、動きはありません。

両国とも新政権に交代以降、関係打開の糸口を探る動きがありました。山口公明党代表の訪中団が安倍首相の親書を携えて習近平総書記との会見が実現しました。山口代表から首脳会談の早期開催などの提案をし、習総書記は「話し合いと協議により取り組むことが必要である」と前向きな発言をしました。その直後に中国海軍船による自衛隊機へのレーダー照射事件が明るみに出て、一気に緊張状態に逆戻りとなりました。その後も、日中友好団体のトップなどが訪中し、中国要人と会見をしましたが、一向に改善の兆しは見えてきません。

それどころか、習近平総書記は軍部を頻繁に視察し、「戦闘準備を怠るな」「戦闘には必ず勝利せよ」などと勇ましい檄を飛ばしています。胡錦濤時代には聞かれなかった発言です。どこを対象とした「戦闘」でしょうか。安倍首相は尖閣の防衛について一歩も引けを取るなとの強い指示を出しています。悪循環です。政治外交レベルの対立状態が長引き、経済貿易や民間交流にまでボディーブローのように悪影響が広がっています。

国のトップの発言は国内の空気を反映しています。両国内で日中関係の改善や話し合い解決を口に出しにくい雰囲気が広がっています。北京の事情通の話では、対日関係者の会議において、某氏が民間交流は絶やさず続けるべきだと主張したところ、「お前は日本飯を食いすぎている」と非難されたといいます。また共産党中央幹部も日本との協調的な発言をすればネットで「売国奴」呼ばわりをされる現実です。

日本では姉妹都市間の交流を自主規制する動きが出ています。東亜同文書院の流れをむくむ愛知大学(名古屋市)は学生による伝統の現地調査を来年実施できるかどうか流動的といいます。今春の大学入試では中国関係の学部・学科の志願者は一様に減少しており、中国留学志望も減る傾向です。嘆かわしく、残念な状況です。

さらに、日本の国会議員百数十人が4月、靖国神社に集団参拝し、安倍首相は閣僚の靖国参拝を容認し「脅かしに屈しない」と挑戦的な発言をしました。当然ながら中国、韓国がそれぞれ外交ルートを通じて非難の声明を出し、反発を露わにしました。歴史認識問題の再燃です。小泉純一郎首相が2001年より5年間、靖国参拝を繰り返し、これに反発した中国との間で「政冷経熱」の状態に陥った轍を繰り返すべきではありません。安倍首相が2006年に訪中し、政冷経熱を突破し「戦略的互恵関係」の新たな枠組みを提示したことを無にするのでしょうか。領有権問題に歴史問題も加われば中韓対日の構図となり、折角進み始めた日中韓FTA交渉にブレーキがかかるだけでなく、米国も日本に自制を求め、北東アジアで日本の孤立を招きかねません。

こういう時こそ、私たちが民間交流を絶やすことなく、維持継続していく努力が求められます。逆風の中での活動ですが、国民感情の改善に取り組まねば後顧の憂いを残すことになりかねません。(2013年4月25日)