更新情報

中国中央テレビ(CCTV)の取材受け、ニュースで録画放送

2025/10/10

川村範行・名古屋外国語大学名誉教授
日中関係学会副会長兼東海日中関係学会会長

中国中央テレビ(CCTV)の取材受け、ニュースで録画放送
川村範行・名古屋外国語大学名誉教授 日中関係学会副会長兼東海日中関係学会会長
10月10日に中国国営中央電視台(CCTV)から高市早苗・自民党新総裁と政権の行方などについてインタビュー(オンラ イン)を受け、当日夜7時台のCCTV全国ニュースで約2分間、録画放送された。中国の国営放送が日本の新政権の行方 と日中関係への影響について、強い関心を示していることの表われだ。 注:インタビューはオンラインで10月10日午前10時より約40分間行われた。この日、午後に自公両党の代表者会談 が行われ、公明の斉藤代表が連立離脱を正式に表明した。インタビューの時点では連立離脱も辞さないとする公明党側 の姿勢を踏まえて回答をした。以下はインタビューの詳細を記す。


 
1.自民党新総裁高市早苗氏は、自民党にどのような新しい変化をもたらすか。 どのような困難に直面することになるか。
 
A1、自民党内での新しい変化は3点ある。
第一、高市新総裁は歴代自民党の中で最も保守強硬(タカ派・右派)の陣容で固め、政策もその傾向が鮮明になる。
石破総裁のもとでは保守中道の人脈と政策が主流だったが、高市総裁のもとで右派、タカ派の人脈が復帰し主流になった。いわば自民党のハト派とタカ派が総入れ替えした、「疑似政権交代」である。安倍首相も為し得なかった憲法改正や軍備増強を積極的に推進する懸念を持つ。
第二に、高市氏は「安倍(晋三元総裁、首相の)後継」を明確に表明しており、安倍元首相死去後に自他共に認める安倍路線継承者の登場となる。同時に裏金問題で批判されて、党の処分や検察捜査や司法判断を受けた、安倍派議員の
復活となる。
第三に、自民党政治史上、初の女性総裁の誕生であり、高市氏に近い女性議員の登用、女性議員の活躍が期待される。
 
A2、高市新総裁が今後直面する困難は3点有ある。
第一、目下の公明党との連立(離脱)が最大の困難である。衆議院、参議院とも少数与党であるため、国会運営には
野党の協力が不可欠。前の石破政権は政策毎に野党と個別に協議し、国会を乗り切った。しかし、この手法は時間がか
かり、野党の主張を丸呑みせざるを得ないケースもあり、国会運営が不安定。このため、高市新政権が誕生すれば連立
の枠組みを増やして、国会運営の安定化を目指しているが、政策や理念の一致などの協議が必要で、新たな連立は簡単
ではない。石破政権と同様の少数与党の道を歩むのかどうか。
第二に、高市氏は財政出動、積極財政を主張しているが、麻生副総裁と鈴木幹事長は財務省寄りの財政規律派であり、財務省が高市路線に反対しており、どこまで持論の「サナエノミクス」を通すことが出来るか難しい。
第三に、高市氏自身や党政の主要ポストに就いた政治家が右派的な支持母体と関わりが深く、右派的な考えや政策を強く反映すれば、自民党の中道保守や公明党から反発が出るだけでなく、選挙で中道保守票が逃げていく可能性が高い。
(高市氏自身は日本最大の右派・保守系団体の「日本会議」を支援する「日本会議国会議員懇談会」副会長、選挙対策本部長の古屋圭司氏は同懇談会会長で台湾との友好関係を重視する「日華議員懇談会」会長、総務会長の有村治子は神
社本庁の関連団体「神道政治連盟」の支援を受けている。)
 
 
2.首相指名選挙が当初予定されていた15日から延期されたが、その理由は何だと考えるか?今後の展開予想は?
 
首相指名選挙の延期の理由は二つある。
第一、公明党は連立に当たり高市自民に対して3点懸念を表明していた。対中外交姿勢と靖国参拝、外国人排斥、政治とカネの問題の3点。自民、公明両党のトップ協議では、このうち2点はおおむね認識を共有したというが、政治とカネの問題では折り合えなかった。政治とカネの問題で公明党は企業・団体献金に厳しい措置(企業・団体献金の受け手に政党本部や都道府県組織、地方支部は国会議員が代表の者に限定する)を求めたが、自民党は企業・団体献金に依存する政治資金の根幹が揺らぐため難色を示した。
公明党は自民党と連立を組んで26年になり、集団的自衛権の行使を容認した安保法制改定はじめ、敵基地攻撃能力の行使を容認した安全保障政策の大転換など、平和憲法の根幹を成す専守防衛の基本方針に反する自民党の政策に賛成してきた。 「平和の党・中道改革」を党是として掲げる公明党の党員や公明党を支える創価学会の会員らが反発した。加えて、昨年の総選挙や今年7月の参院選挙では、公明党は裏金問題で批判を浴びた自民党議員らを支援し、かつて比例全国区で800万票台を獲得していたが、参院選挙では520万票にまで落ち込んだ。公明党は党の存亡を賭けて、自民党と連立するべきか否か、深刻な局面に直面。公明党は保守右派の高市新総裁と安易な妥協は出来ないため、高市氏はスタート当初から極めて困難な状況に陥った。
今後は次のケースが予想される。
高市氏は、国民民主党或いは維新、参政党、保守党と連立協議を進める。国民民主の玉木代表は連立に前向きなため、高市氏は国民民主の主張である・手取り178万円まで・ガソリン暫定税率の廃止―を受け入れる。国民民主は支持母体の連合から自民との連立に釘を刺されているため、①当面は閣外協力②時期が来たら連立―の2段階方式を採るか。
(公明の連立離脱で首班指名国会に向けて各党の合従連衡が予想され、結末は見えない。)
 
 
3、現在、国民が最も関心を寄せている問題は何か?国民の信頼を取り戻すためにどのような政策を取るべきか。
 
国民が最も関心を寄せているのは、過去2年間に物価上昇が続き、生活が苦しくなっている現状を改善する政策である。これについて野党が求めているのは、消費税率引き下げや実質賃金増額、年金目減り防止など。高市本人は財政出動、積極財政を主張しているが、財政規制派の財務省が反対しており、国民の要求に何処まで応じられるか疑問。高市氏の財政出動に向けて為替が円安(152円台)に振れており、更なる物価高を招く懸念がある。
自民党が国民の信頼を取り戻すためにどのような政策を取るべきか、2点有る。
第一に、政治とカネの問題で透明でクリーンな方策を採ること。昨年の衆議院選、今年の参議院選で自公与党が相次ぎ敗北し、少数与党になった大きな原因は、派閥の裏金問題である。しかし、高市氏は裏金問題に関係した議員は既に選挙でみそぎは済んだとして、裏金事件に関係した萩生田光一元政調会長を幹事長代行に起用した。今年8月に萩生田氏の政策秘書(当時)が政治資金規正法違反で罰金の略式命令を受けたばかり。「解党的出直し」とは真逆の方向。国民は失望し、自民党離れは更に進む。
第二に、旧派閥による政治運営を打破し、公明正大で透明な政治を進めること。しかし、高市氏は自民党総裁選挙で唯一の派閥を率いる麻生太郎氏に頼り、総裁選挙後の人事でも麻生派を優遇した。こうした自民党政治の復古主義現象に対して、国民は嫌気がさしている。
 
 
4.良好な日中関係を維持するため、どんな外交政策を取るべきか?
 
3点指摘する。
第一、先ずは日中関係の基礎となっている四つの政治文件を遵守すること。特に、「一つの中国」の原則を踏まえての日中外交が基本中の基本である。高市氏本人のみならず各大臣や党要職者はほとんど台湾派であるため、台湾に接近し、台湾独立に加担するような言動は厳に慎むことである。
第二に、日中戦争に対する歴史観を堅持すること。即ち、日中国交正常化共同声明では日中戦争で中国に多大な損害を与えたことについて「責任を痛感し、深く反省する」と明記してあり、この共通認識に反するような歴史修正主義を取らないこと。併せて、戦争の責任者であるA級戦犯が祀られている靖国神社への参拝を絶対に慎むことである。 (高市氏は侵略戦争を否定し、靖国参拝を公言しており、首相になった場合に日中外交へのリスクは高い。 )
第三に、福田康夫首相と胡錦濤国家主席の間で2008年に合意した「日中戦略的互恵関係の包括的推進」共同声明の継承を、岸田首相、石破首相とも習主席との首脳会談で再合意しており、新政権も継承するべきである。
特に、トランプ2.0が戦後国際秩序を否定し、アメリカ第一主義を進めている状況下で、日中両国がアジアと世界の平和と安定に向けて、手を携え、協力して取り組むことが必要である。国連憲章やWTO(世界貿易機関)、及びGATT(関税及び貿易に関する一般協定)を尊重し、平和協調と多角的自由貿易を推進することである。

お知らせ一覧

2025.11.26
台湾有事発言への懸念―日中関係の修復を求める学者声明(Yahoo!ニュース掲載)
2025.10.10
中国中央テレビ(CCTV)の取材受け、ニュースで録画放送
2025.08.22
中国《澎湃新闻》にインタビュー記事掲載
2025.08.18
「欧州・アジアの結節点」新疆ウイグル自治区ウルムチ・カシュガルを視察
2025.08.03
中日平和友好交流会で学界代表として講演
2025.07.25
中国中央テレビに出演、『中国日報』などでも報道 ~参院選結果の論評~
2025.07.07
武漢大学主催の戦後80周年記念国際シンポジウムで日本人唯一の招聘講演
2025.06.12
中国大使館主催の中日メディアサロンで特別講演
2025.05.24
日中関係学会全国大会で開会挨拶
2025.03.28
日中共同建設桜友誼林保存協会訪中団の顧問として訪中
2025.01.22
東海日中関係学会2025年新春公開研究会
2025.01.21
[2025.01.25] 時論「結成20周年 ジャーナリスト訪中団の成果と教訓」
2024.12.08
上海外国語大学75周年国際シンポジウムで講演(日文・中文)
2024.11.23
時論『孫文「大アジア主義」演説の現代的意味~「日本よ アジアに立脚し中国と協調外交を」~』
2024.09.28
中部学術訪中団総括報告「リアル中国を知る~上海・浙江省での交流成果と中国の実情~」
2024.05.23
[2024/07/05開催] 講演 名古屋ピンポン外交の教訓
2024.05.23
[2024/6/30開催] 国際理解講演会 世界を左右する中国の『長期戦略』
2024.05.23
[2024/6/26開催] 日中山河経済文化促進会 特別講演会 (熱田神宮会館)
2024.01.27
時論「中国主導の世界は可能か- 新たな発展理念“人類運命共同体”白書から -」
2023.12.09
第8回日中関係討論会 基調報告「武力ではなく、外交と交流により、東アジアの平和を」
2023.10.15
時論 「ポストコロナ初の学会訪中団を受け入れた中国- 日中間の対面交流の意義-」
2023.05.13
時論 客観的、理性的に日中関係を論じて30年
東海日中関係学会設立30周年記念・日中平和友好条約締結45周年記念シンポジウム
開会挨拶
2023.03.23
「大江健三郎平和主義思想及び其の現代価値」シンポジウム報告 
2023.03.22
時論 大江健三郎氏を偲ぶ北京シンポジウムへのメッセージ
2023.01.28
時論 中国敵視・安全保障政策の危うさ~日中関係改善の好機を逃すな~
2023.01.27
時論 西原春夫・早大元総長を悼む -「東アジア不戦」94歳の志半ばで
2022.12.12
時論 緊急提言  日中関係改善の好機を逃すな
- 3期目習近平指導部の対外政策を読み解き、適切な対応を -
2022.03.01
時論 日中国交正常化50周年へ 局面打開の知恵と行動を
2022.01.29
時論 「日中交流に尽くした人々に学ぶ~国交正常化50周年に向けて~ 」
2021.11.01
時論 「日中政府間交流と首脳会談の再開を」