中国大使館主催の中日メディアサロンで特別講演
中国大使館主催 中日メディアサロン 特別セッション〈ベテラン記者が語るリアルな中国事情〉
「改革開放“第 2 期”の中国観-真実の中国を伝え、日中関係を考える手がかりとして-」
名古屋外国語大学名誉教授・日中関係学会副会長
中華人民共和国駐日本国大使館で特別講演する筆者=2025 年 6 月 12 日、東京都港区で
1、ジャーナリスト、研究者として 40 年間の中国観察
私が初めて中国を取材したのが 1985 年で、それ以来、40 年間、中国と日中関係を見てきました。
特に、1995 年から 98 年までの 3 年間、上海特派員として駐在中に計 30 回出張し、広
い中国各地の実情を見て回りました。帰国後も、2004 年に結成したジャーナリスト訪中 団の団長としてほぼ毎年、外交部や中国社会科学院日本研究所と定期交流し、毎回、地方 を視察しました。併せて上海の同済大学顧問教授、武漢大学客員研究員として、国際シン ポジウムに毎回参加してきました。こうして発展途上国から経済大国へと変貌する中国を 実感しました。
2、コロナ前とコロナ後の「中国観」の違い-訪中 8 回による新たな中国理解
しかし、新型コロナの影響により、交流が 4 年近く途絶えたため、私は対面交流の必要 性を痛感し、コロナ後のこの 2 年間で計 8 回訪中しました。私が会長を務める東海日中関係学会の訪中団は 2 年連続訪中、ジャーナリスト訪中団も昨年の結成 20 周年目に再開し ました。ほか復旦大学や上海外大へ講演に行きました。明後日からは広東省視察です。コ ロナ後の訪中により経験した新たな中国事情を 3 点紹介します。
(1)第一は、外交部アジア局や中国社会科学院日本研究所などとの定期交流が復活し たことです。中国が一貫して日中関係を重視し、経済・環境などで協力を想定しながら、 日中双方とも安全保障・経済安保両面で懸念を持つことを確認しました。事前に質問を提 出して、意見交換による相互理解を深めたことは極めて貴重でした。
また、習近平主席が提唱する重要政策「共同富裕」のモデル地区に浙江省が 2021 年に 指定されましたが、政策を担当する浙江省共産党学校(党校:杭州市)へ日本の学会とし て初めて訪問し、詳しい説明を聞くことができました。21 世紀の中国が目指す共同富裕 とは何か-。それは中間所得層を総人口の 7,8 割に増やす「ラグビー型社会」(橄欖型 社会)だと知りました。浙江省内で 2035 年までに目標を達成し、全国では 2049 年までに 達成する計画です。既に共同富裕を実現した「モデル村」も視察しました。課題はあるが 共同富裕に成功すれば、鄧小平氏の「先富論」を脱し、中国特色社会主義の新しい段階に 入ります。
(2)第二は、北京、上海以外の 2 線都市、3 線都市の目覚ましい発展です。この 2 年 間に河南省、江蘇省、浙江省、安徽省、広東省の都市 10 箇所を訪問しましたが、各省都 (鄭州市、南京市、杭州市、合肥市、広州市)のみならず河南省開封市、安陽市、江蘇省 無錫市や蘇州市、安徽省馬鞍山市などの各都市も、高速道路、高速鉄道、地下鉄、緑化な ど整備した近代都市に変貌していました。
主要地方都市は競って最先端科学技術産業に力を入れています。例えば、安徽省合肥市 にある AI 大手の科大訊飛(iFLY TEK)では、8 カ国語汎用の音声文字同時転換システム を開発し、私も実体験しました。また、世界を驚かせたディ-プシークを擁する杭州市は 広大な敷地にイノベーションを促進する「ドリーム村」を造成、オフィスと補助金を提供 しています。無錫市内の区レベルでも、科学技術の最高位「院士」を招いて、イノベーシ ョンを起こそうとしています。
(3)第三は、21 世紀に入り中国各地で考古学上の発見が相次ぎ、中国文明の歴史が塗り替えられていることです。黄河文明の発祥地、河南省南陽市の殷墟博物館に三千数百年 前の甲骨亀甲数十点がずらりと展示され、刻字は全て解読されています。殷(商)の前の 夏王朝の宮殿跡も発見され、貴重な出土品が河南省博物館で展示されています。浙江省杭 州市の歴史博物館では、約 1 万年前から長江支流で始まった原始稲作遺跡の出土品が展示 され、黄河文明とは別の長江文明の実態を理解できます。
3、結び
中国は 2028 年に改革開放から半世紀を迎えます。当初は外国の資本・技術を導入し、沿海部中心に経済発展を促進しましたが、21 世紀の現在は内陸部の地方都市等が自らIT、AI など最先端科学技術を梃子にして発展を進めています。中国はいわば“改革開放 の第 2 期”(改革開放の深化)を迎えたと言えます。
コロナ以前の中国観で中国を語ると、明らかなずれが出ます。やはり実際の対面交流を 通じて正確な一次情報を得て、中国の姿を把握し、客観的且つ公正な中国報道や中国研究 に資する必要があると考えます。かつて周恩来総理曰く「日中両国は二千年の友好往来と 50 年の不幸な歴史を持つ」、特別な二国間関係です。百年に一度の激動期に直面する世 界で、日中関係は益々重要です。私自身は今後も(老記者兼老学者として)、鄧小平氏曰 く、事実に即して物事を見る「実事求是」(中国語)の考え方を基に「真実の中国」を伝 え、新時代の日中関係の在り方を追究していく考えです。