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時論 党大会に向けた中国共産党の人事を読み解く

2017/02/03

2017年1月

時論
「党大会に向けた中国共産党の人事を読み解く ~李克強は全人代委員長へ、王岐山は国家監察委主任へ 北京、広東など習側近で体制固め~」

日本日中関係学会副会長、名古屋外国語大学特任教授
川村 範行

 

 

 中国共産党の習近平総書記が秋の党大会に向けて、急ピッチで人事工作を進めている。複数の日中関係筋によると、習近平とそりの合わないといわれる李克強総理を全国人民代表大会(全人代)の常務委員長(国会議長に相当)へ転出させる方向でほぼ固まった。これに伴い、習近平の息のかかった人物を総理に据える可能性が高いとみられ、習体制の強化が進む。


 また、反腐敗闘争を陣頭指揮してきた王岐山・紀律検査委員会書記は政治局常務委員の年齢制限上、党大会で退くと見られていたが、新たに設置される国家監察委員会主任に就くことがほぼ確実となった。国家監察委員会は国務院と並ぶ位置づけとなり、王岐山は総理並みの地位を得ることになる。習近平の重要な片腕とされる王岐山は引き続き反腐敗闘争を指揮し、習近平体制を支える。


 最高指導部の政治局常務委員7人のうち習近平、李克強を除く5人は年齢制限に従えば退くことになるが、国家監察委主任となる王岐山が残留するかどうかは微妙である。新たな最高指導部としては習側近の栗戦書(現・中央弁公庁主任)と王滬寧(党中央政策研究室主任)の2人の名前が浮上し、ほかに上海市党委書記の韓正、広東省党委書記の胡春華も有力視されている。胡春華と並んで60年代生まれの次世代ホープと目されていた重慶市党委書記の孫政才の処遇は流動的とみられる。


 また、別の中国筋によると、ポスト習近平を担う政治局員クラスでは、韓正が上海から副総理に昇格し、70歳となる北京市党委書記の郭金竜は退くとみられる。これに伴い、胡春華が広東から上海市党委書記へ、貴州省党委書記で同じく60年代生まれの陳敏爾が広東省党委書記へ、浙江省党委書記の夏宝竜が北京市党委書記へ異動するとみられている。秋の党大会で胡春華は政治局常務委員に、陳敏爾と夏宝竜も政治局入りする可能性が高い。習近平が浙江省党委書記当時、夏宝竜が党委副書記、陳敏爾は副省長を務めた“浙江閥”の有力メンバーであり、今後は北京と広東の直轄市トップとして習近平体制を名実ともに支えていくことになる。


 さらに、王岐山の後継者に躍り出てきた人物として習近平国家主席の助手で北京市紀律検査委員会前書記の李書磊が挙げられる。李書磊は年明けの1月8日に閉幕した党第18期中央紀律検査委員会第7回全体会議で、王岐山の後継者含みで中央紀律検査委員会副書記に選出された。李書磊は秋の党大会で同委員会書記に昇格して反腐敗闘争を受け継ぎ、さらに数年後には王岐山の後釜として国家監察委員会主任に就くとの観測が出ている。


 1964年生まれの李書磊は14歳で北京大学に入学、24歳で北京大学文学博士号を取得、「北京大学の神童」と呼ばれている。25歳で共産党の中央党校教師となり、44歳で中央党校副校長となり、校長であった習近平と上司・部下の関係が生まれた。習近平の信頼を勝ち得えて、ブレーンとなった。2014年には福建省の党委員会宣伝部長、北京市の党委員会常務委員と紀律検査委員会書記を歴任している。過去3年で異例の三段階の昇級を遂げたことになり、今後、王岐山と共に反腐敗闘争を担っていく重要人物とみていい。


 このように、党中央政治局において、江沢民の上海派や胡錦濤の共青団派は弱体化し、習近平の片腕や側近などで強固な新体制が敷かれることになる。


(2016年1月31日 記)

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