日中両国政府に早期関係修復を求める緊急声明
東海日中関係学会が日中両国政府に早期関係修復を求める緊急声明
東海日中関係学会は2025 年11月26日、愛知県庁内の県政記者クラブで記者会見を開き、高市首相の“台湾有事”に関する国会発言により悪化した日中関係について、日中両国政府に対し早期の関係修復を求める緊急声明を発表した。声明では、打開に向けた具体的な対応5項目を提案し、両国政府に理性的な対応を求めた。高市首相発言以降、日本の学会、学術団体で声明を発表した先駆けとなった。
東海日中関係学会会長である筆者は、日中関係の悪化を憂慮し、声明発出などの対応を出すよう理事会に提案し、理事10 名の総意で決まった。「日中関係の研究に長年取り組んできた学会の知見を結集し、学会として中立の立場で両国政府に関係修復を求める」ことを基本姿勢とした。筆者が原案を起草し、国際関係や安全保障などを専門とする理事数名で文面の検討を重ねた。「高市首相に発言撤回を求める」と記すかどうかで議論もしたが、発言撤回は難しいとの判断から「適切な対応」と「外交努力」を求めるとの表現に落ち着いた。文面には神経を配り、数回、書き直して仕上げた。
声明の主旨が確実に両国政府に届くようにと、声明文は高市早苗首相、木原稔官房長官、茂木敏充外務大臣、呉江浩中国駐日本国大使の四者宛に送付した。
東海日中関係学会の緊急声明(全文)
「日中関係の悪化を憂慮し、早期の関係修復を求める」
-打開に向けた対応5項目を提案し、日中両国政府に理性的な対応を要望する-
“台湾有事”に関し集団的自衛権行使の「存立危機事態」になり得るとした高市早苗首相の国会発言が、日中関係に深刻な影響を及ぼしている。中国政府は「核心利益」とする台湾問題への内政干渉であり「一つの中国」原則に反するとして発言の撤回を要求しているが、日本政府は従来の見解に変わりはないとして、両国の主張は平行線のままだ。中国は日本への渡航自粛や海産物の輸入停止などの対抗策を打ち出し、日本の経済的損失は計り知れない。学術・民間交流などにも影響が拡大し、国民感情の悪化を引き起こしている。2012 年の尖閣諸島国有化問題で日中両国が全面対立に陥って以来の関係悪化になる可能性もある。日中関係の研究と交流に30 年以上取り組む当学会として事態を看過できず、日中関係の長期悪化を憂慮し、早期の関係修復を求めるものである。戦後80年間、戦火を交えず、平和的に発展してきた日中両国の関係をこれ以上悪化させてはならず、ここに緊急声明を発表する。
以下、対立打開に向けた対応5項目を提案し、両国政府に理性的な対応を要望する。
1、日本の現職首相が国会で“台湾有事”の際に米軍の援軍として自衛隊参戦の可能性を初めて示唆した事は、従来の政府見解を踏み越えるものであり、極めて重大である。首相発言に関する適切な対応をはじめ、早期に鎮静化を図るため、対話と協議による外交努力が求められる。
2000 年代初頭の靖国参拝問題や2012年の尖閣問題による両国の関係悪化時に、親書や特使を含めて対話と協議により関係修復を図った外交努力を範としたい。
2、日中両国政府は1972 年の日中国交正常化共同声明に基づく「一つの中国」原則はじめ、日中関係の基礎となる「四つの政治文書」を再確認し、戦後80 年間維持してきた「不戦・平和」の貴重な実績を将来にわたり維持するよう求める。
3、中国は日本の最大の貿易相手国であり、両国の対立は双方に“百害あって一利無し”となるため、日中両国政府はできるだけ速やかに外相会談、防衛相会談ほか政府間協議を開催し、この件によって停滞している経済交流及び民間交流などを元に戻すよう求める。
4、高市首相と習近平国家主席が首脳会談で確認した、「戦略的互恵関係の推進」による「安定的、建設的な日中関係」は、東アジアの平和と安定に不可欠であり、両国政府が共にその実現に努力するよう求める。
5、日中両国政府は、東シナ海などでの安全保障上のトラブル防止のため、両国間で合意した危機管理メカニズムやホットラインを活用し、不測の事態を避けるよう求める。
東海日中関係学会
メディア報道と反響
11 月26 日の緊急会見には、筆者と学会事務局長(理事)が出席し、筆者が声明文を読み上げて主旨を説明した。地元の新聞・テレビ・通信社から計11社が出席。民放テレビ5局が当日夕方のニュース番組等で一斉に放送した。ヤフーニュースやユーチューブなどのネット・ニュースにもアップされた。中日新聞と毎日新聞が翌日11月27日付け朝刊で報道した。
「国際アジア共同体学会」と「村山首相談話を継承し発展させる会」が東海日中関係学会の声明に相次ぎ賛同し、12月上旬にそれぞれの声明を発表した。
学会活動と対外発信
東海日中関係学会は1993 年の設立以来、日中の相互理解の促進や相互交流を目的として活動に取り組んでいる。研究者が長年の研究から得られた知見を社会に還元していくことは重要である。研究者の「社会的使命」として、建設的な情報発信は必要であると考えている。
東海日中関係学会は、等身大の中国を知るため、2017 年と2023年、24年、25 年の過去4 回、有志による訪中団を派遣し、中国政府や政府系シンクタンクなどと直接、対面交流による意見交換を行ってきた。
日中両国間では外交的に困難な状況にある時も、民間レベルの交流が続いてきた。国交回復以前から「民を以って官を促す」(中国語で「以民促官」)という言葉がある。日中関係を研究する学会として、等身大の中国を日本に伝え、日本からも中国へ発信・議論していくことで、微力ではあるが、相互理解や関係改善に貢献できると考える。